第3回「無人島にひとりきり……」

 無人島で暮らすことになって、ひとつだけ何かを持っていけるとしたら、何を持っていくか?こんな質問に「電話」と答えた人がいました。それじゃ、無人島の意味がないじゃない、と思ったものですが、やはりひとりぼっちは寂しいもの。会話できなくとも、人の声が聞きたいというのは、ごく自然なことのように思います。

 島で、ひとりきりで18年も暮らした少女がいました。彼女は初めからひとりだったわけではなく、部落の人たちと普通に暮らしていました。が、ラッコ狩りをする人たちがこの島にやってきたため、争いが起こり、部落の男たちが何人も死んでしまいます。やがて残された人たちは、次にやってきた白人の船に乗ってこの島を去ることになります。少女ももちろん一緒に行くはずでしたが、急に船から海に飛び込み、島に残ったのです。

 この出来事は1835年アメリカ、カリフォルニア沖のサン・ニコラス島で起きました。彼女はなんと1853年までの18年間を、ひとり、島でたくましく生きぬいてきたのです。この事はごくわずかな記録でしか残っていなかったのですが、スコット・オデルという作家が『青いイルカの島』と題して、本にし、広く知られるようになりました。

『青いイルカの島』  スコット・オデル/作  藤原 英司/訳  小泉 澄夫/絵  理論社  (小学上級から)

青いイルカの島』(新装版)
スコット・オデル/作
藤原 英司/訳
小泉 澄夫/絵
理論社
(小学上級から)

 少女はもともと自然の中で生きていくための知識を持っていました。でも狩りは男の仕事。狩りのための道具を女が作る事も、部落の中ではタブーとされていました。でもひとりで生きていくためには、狩りをしなければなりません。見よう見まねで、弓、矢、銛などを作っていきます。野犬がいても、ただ恐れたりせず、知恵を働かせて、その中の1頭を相棒にさえするのです。

 今、私たちが突然ひとりになったとしたら、到底、この少女のようにはやっていくことはできないでしょう。なぜなら、まず生活の基盤が全く変わってしまっているのですから。でも、少女の勇気や物事に対処する姿勢など、学ぶべきことがたくさんあります。自身で生き抜く力を身に着けていけば、この先何かあった時にも、気持ちから萎えてしまうこともなくなるのではないでしょうか。その意味でこういった本を読んでおく意味があると思うのです。

 こんなに強い少女も、ひとりの寂しさは辛かったようで、犬を相棒にしたり、鳥を飼ったりします。相手が同じ言葉で答えてくれなくても、話しかける相手がいるのは、心強いものなのですね。様々な“音”の中で生活していても、やはり話相手がいるのと、いないのとでは安心感が全く違うと、たまにひとりで夜を過ごさなければならない時に、つくづく思います。この少女に比べたら、たいした時間でもないのに……。1冊の本を読むことで、見えてくるものがあり、いろいろと考えさせられるものですね。

 『青いイルカの島』は理論社のジュニアライブラリーというシリーズで出版されていました。今現在は新装版が出ています。以前の版では藪内正幸さんの挿絵と映画化されていましたので、そのスチール写真がたくさん入っていました。新装版ではそれが変わってしまって、ちょっと残念で、寂しい思いがします。

『青いイルカの島』(旧版) スコット・オデル/作 藤原 英司/訳 薮内 正幸/絵 理論社 (松永私物)

『青いイルカの島』(旧版)
スコット・オデル/作
藤原 英司/訳
薮内 正幸/絵
理論社
(松永私物)

松永 みどり
大学時代に児童文学を学び、その頃からメルヘンハウスに通いつめる。今では勤続30年をこえる超ベテラン。長年に渡りブッククラブの選書を担当し、数多くの 子どもたちの心に響く本を選び抜いてきた。社内でも本選びに困ったスタッフから度々相談を持ちかけられるなど、信頼も厚い。プライベートでは2人の娘を持つ母親。野球とテニスが好きで、言わずもがな読書が大好き。

青いイルカの島 : スコット オデル
スコット・オデル / 作
藤原 英司 / 訳
小泉 澄夫 / 絵
理論社

ただひとり孤島にとり残された少女は、きびしい自然や孤独と戦いながら18年の歳月を生きぬいた。実話をもとに書かれた名作の復刻版。

対象年齢 : 小学上級から
1,600円 + 税 購入する
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