第4回「自分らしく」

 
今回はマヤ・ヴォイチェホフスカの『闘牛の影』を紹介します。

 お話の舞台はスペイン、アルカンヘルという町。主人公は町の人々にとって、英雄ともいえるくらい有名な闘牛士フアン・オリバルの息子マノロ少年です。フアンは闘牛で若くして亡くなっていましたが、町では、成長するにつれて父に似てくるマノロが、有名な闘牛士になることを期待していました。そして、それこそがマノロの悩みなのでした。彼は自分が臆病者だと思っていたからです。いつも、何にでも怖がっていた自分に闘牛なんてできるとは思えません。でも、まわりは彼がフアンのようなすばらしい闘牛士になり、アルカンヘルの町に再び栄光をもたらすことを、望んでいたのです。

 マノロは6人の闘牛の熱烈な信奉者から、闘牛について学びます。闘牛場へも出かけ、闘牛士の様々な技を見、夜、ひとりで一生懸命練習をします。マノロは自分なりに努力をします。が、実際に牛を相手にする「牛だめし」の会が近付くにつれ、不安になってくるのです。それは、自分ができないかもしれないという事ではなく、できないことで町の人々の期待を裏切ってしまう事を恐れているからでした。

 自分が自分の思った事を思った通りにやれるのなら、たとえ失敗したとしても、それは自分の責任です。ですが、何かをやろうとした時、親や先生たちに期待されていた場合は、うまく事が運ばなかったとき、自分だけの責任という事だけでは済まなくなってしまいます。期待が大きければ大きい程、のしかかってくる重責にも耐えなくてはならなくなります。だからこそ、自分を押し殺して、まわりに合わせるのでなく、誇りを持って自分の生を、自分らしく全うしていくんだよ。……この作品はこんな事を私たちに語りかけているように思います。

  実は私もこの本を中学生の時に読みました。マノロが最後に下した決断に、よかったなと安堵しました。それとともに本当はマノロは臆病者ではなかったんだと思ったのでした。

 今読み返してみると、多分その後の私の様々な転機でこの本が少なからず影響しているように思います。自分らしく誇りを持って生きていこう!誇りとまではいかなくても、自分らしさを失わずに生きていこう!めげそうになっても、少しはがんばれるような気がします。

松永 みどり
大学時代に児童文学を学び、その頃からメルヘンハウスに通いつめる。今では勤続30年をこえる超ベテラン。長年に渡りブッククラブの選書を担当し、数多くの 子どもたちの心に響く本を選び抜いてきた。社内でも本選びに困ったスタッフから度々相談を持ちかけられるなど、信頼も厚い。プライベートでは2人の娘を持つ母親。野球とテニスが好きで、言わずもがな読書が大好き。

 

闘牛の影 : マヤ ヴォイチェホフスカ
マヤ・ヴォイチェホフスカ / 作
渡辺 茂男/ 訳
岩波少年文庫

マノロが顔も覚えていない父は、スペインのその町に銅像が立っているほど有名な闘牛士だった。自分の臆病さに気づき、周囲の期待を裏切ることを恐れつつも自らの道を必死に探る少年の物語。

対象年齢 : 中学生から
700円 + 税 購入する
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