第5回「ふろふき大根のゆうべ」

 寒い季節になると、温かいものが恋しくなります。あったかーい食べ物が食べたくなります。そんな頃にいつも思い出すお話があります。

 安房直子はさりげなくその作品の中に、おいしそうな食べ物を登場させます。豪華な料理ではなく、素朴なものが多いのですが、いつも「ああ、なんておいしそうなんだろうなあ。一口食べてみたいなあ」と思うのです。そんなお話の中で、私が寒い季節に思い出すのは、童話集『風のローラースケート』の中の「ふろふき大根のゆうべ」という短編です。

峠の茶屋の茂平さんが山道で出会ったのは、味噌を買いに行くという猪。今日はふろふき大根のゆうべで、あちこちの山の猪が集まって、ふろふき大根を食べるのだというのです。茂平さんはちょうどいい大根を持っていたこともあって、その大根を分けてあげる替わりに、そのゆうべに招待してもらうことになります。そして、カヤでつくられた一軒の家で四角い囲炉裏を囲んで、ふろふき大根をご相伴するのです。

 猪が囲炉裏を囲んでいる図がずっと頭に焼き付いてしまい、温かいものが欲しくなると、その場面がふっと浮かんできます。くるみ味噌で食べる大根は、どんな味だろうなあ。熱いのをハフハフしながら食べると、心も身体も暖かくなって、嫌なことも忘れて、きっと楽しいだろうなあと、そんな風に思えてきます。

 本を読む楽しみはストーリーを追うことだけでなく、こんなところにもあるのでしょうね。『風のローラースケート』にはこの他に7編の短編が入っていますが、そのどれもに何かしらおいしそうなものが出てきます。登場人物がこれらを食べているシーンは、読者をも幸せな気持ちにさせてくれるものなのですね。

心があったかくなってくるこの童話集は私の大好きな本です。そして安房直子という作家に出会った最初の本でもあるのです。この作家のものをもっと読みたいと、読み進めていくと、やさしい語り口の中でドキッとさせられることがとても多いことに気付きました。それは、また次回にご紹介します。

 

松永 みどり
大学時代に児童文学を学び、その頃からメルヘンハウスに通いつめる。今では勤続30年をこえる超ベテラン。長年に渡りブッククラブの選書を担当し、数多くの 子どもたちの心に響く本を選び抜いてきた。社内でも本選びに困ったスタッフから度々相談を持ちかけられるなど、信頼も厚い。プライベートでは2人の娘を持つ母親。野球とテニスが好きで、言わずもがな読書が大好き。

風のローラースケート : 安房 直子
安房 直子 / 作
小沢 良吉 / 絵
福音館書店


峠の茂平茶屋のあたりでは、動物が人を訪ねてくるし、どうやら人間も動物の集まりに入っていけるようです。“山の住人”たちのふしぎな交流が、うまそうな食べものとともに、美しくつづられる、作者が「ほんとうにほんとうに楽しく」書いたと述懐した、新美南吉児童文学賞受賞の連作童話集。(文庫版)

対象年齢 : 小学中級から
600円 + 税 購入する
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