第6回「語り口はやさしいけれども……」

 人間の欲望というものは、際限がないようです。初めはちょっとだけ、であったのが、一度いい思いをすると、もう少し、もう少しだけ、となっていくように思います。欲望自体は、人間を進歩させていくものですから、実は大切なものなのでしょう。でも度が過ぎると、身を破滅させてしまうものでもあるのです。

 安房直子の作品を読んでいると、つくづくとそんな事を考えてしまいます。やさしい文体、語り口なのに、読み進んでいくと、ぞっとしている自分がいます。主人公の行動に、このくらいは私もやってしまうよね、と思いながら読んでいるから、余計にその結末に愕然とするのかもしれません。

 『ハンカチの上の花畑』の良夫さんと奥さんのえみ子さんはどちらも善人と呼ばれる類の人です。酒倉のおばあさんとの約束を守って、良夫さんはえみ子さんにも預かったつぼの話をしません。このつぼには、ハンカチの上に菊の花を咲かせて、それでおいしい菊酒を造る小人が住んでいるのです。が、秘密はそんなに長くは隠しとおせるものではなく、やがてえみ子さんの知るところとなります。そしてえみ子さんは菊酒を知り合いの人にわけてあげる楽しみを持つようになるのです。楽しみが今度は商売にならないかという気持ちに変わっていきます。それを待っていたように、買いたいという人が現れ……。石ころが坂道を転げていくように、もう止めたくても止まらない勢いで、どんどんどんどんとお話が進んでいくのです。

 このお話が次にどのように展開するのか、多分誰も想像できないでしょう。安房直子が編み出したこのお話は、ちょっと可愛らしい題名とは大違いの、本当に恐ろしいものだったのです。

 現実の世界では、小人が出てこなくても、きっとこのお話に似たような事は起こりうるはずです。その事を肝に銘じておかなければと思っています。

 

松永 みどり
大学時代に児童文学を学び、その頃からメルヘンハウスに通いつめる。今では勤続30年をこえる超ベテラン。長年に渡りブッククラブの選書を担当し、数多くの 子どもたちの心に響く本を選び抜いてきた。社内でも本選びに困ったスタッフから度々相談を持ちかけられるなど、信頼も厚い。プライベートでは2人の娘を持つ母親。野球とテニスが好きで、言わずもがな読書が大好き。

ハンカチの上の花畑 : 安房 直子
安房 直子 / 作
岩淵 慶造 / 絵
あかね書房

良夫さんが酒屋のおばあさんから預かったつぼの中に、おいしい菊酒をつくる小人の家族がいて、良夫さんはそのおかげで金持ちになるが、ある日思いがけないことがおこってしまう。

対象年齢 : 小学上級から
1,300円 + 税 購入する
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