第9回「お母さんから勝ち取った!」

1冊をめぐる親子の戦い?

一冊の本をめぐって、親子の争奪戦を毎日のように見てきました。「そんな本、何のためになるの?」「簡単すぎてすぐ読んでしまうでしょ!」「平がなばかりですね!」「私が選んだ本が一番いいの!」……、親の言い分です。
気に入った本を胸に抱えて、「だって面白いんだもの」の一点張りは子どもの言い分です。毎日のように繰り返される光景ですが、その中でも強烈に印象的な、戦い?を報告しましょう。

問題の本は、『ねずみくんのチョッキ』(ポプラ社)です。主人公のN子ちゃんは、絵本が大好きな小学2年生です。新刊コーナーで『ねずみくんのチョッキ』(1974年初版)を見つけたN子ちゃんは、他の本には目もくれず、ニコニコしながら何回も繰り返し、1時間近く見ていました。「さあ、Nちゃんあなたの本見つけたからこれ買って帰ろうね」、母親の誘いに、遠慮がちに「お母さんこの絵本とても面白いからこれも買って!」と『ねずみくんのチョッキ』を見せました。それを手にした母親が言いました。「もう絵本は卒業よ!それにこの本は何よ!こんな広いページに平がながたった3行、一体何のためになるの?」。

N子ちゃんではありませんが、移転前の光景

N子ちゃんではありませんが、移転前の光景

ちょっと険悪な雰囲気になってきました。「ねずみくんのチョッキをゾウさんが着てしまうまでの面白いお話だよ」、N子ちゃんは、この本のおもしろさを一生懸命お母さんに説明しています。でも本当の面白さが理解できないお母さんは、「駄目と言ったら駄目です」と買ってくれる気配はありません。レジの前で引っ張り合いまで始めてしまいました。私は見て見ぬふりをしながら「Nちゃんがんばれ!Nちゃんがんばれ!」と無言の声援を送りました。そうするとNちゃんの次の作戦が出てきました。

子どもの作戦成功!

2年生のNちゃんが本を抱きしめ、なんと泣いてみせたのです。でもお母さんもお母さんです。「泣いたって駄目よ」の一言で片づけられてしまいました。私が本屋の主人でなかったら、「そんなに好きならあげるよ。持って行きなさい」と言っていたかもしれませんが、やはり無言の声援を送り続けるしかありません。泣いてもだめなら……、と考えていたのでしょう、Nちゃんが最後にとった行動は、お母さんの手から取った『ねずみくんのチョキ』の角にかみつき、歯形をつけました。傷をつけたらお母さんは買わざるを得ないだろうと考えたのです。こうして見事に自分のものにした『ねずみくんのチョッキ』は、毎日寝る前に10回は読んでいたそうです。

いつの時代も子どもは子ども。

いつの時代も子どもは子ども。

「子どもの宇宙」と言われる空間へ行くパスポート

大人は子どもの本に「字を覚えてほしい、読解力をつけてほしい、数も数えられるように、またしつけに役立てば……」などの思いを寄せがちです。一方、子どもたちが本に求めるものは、大人の思いとは全く違うものです。それは、何物にも束縛されない非日常の世界へ行くことです。まさに「子どもの宇宙」と言われる空間へ行くパスポートなのです。その空間は、美しく、楽しく、また悲しい世界であったり、時には深い憤りを感じる時もあります。本の向こう側に広がるこんな間接体験が、心を育てていくのです。本の力を再確認しましょう。

代表 三輪哲

ねずみくんのチョッキ : なかえ よしを
なかえよしを / 作
上野紀子/ 絵
ポプラ社

お母さんが編んでくれた赤いチョッキ、ねずみくんにぴったり。そこへあひるくんがやって来て「ちょっと着せてよ」。次々に大きな動物が着てみるうちにチョッキは…。ロングセラーの愉快な絵本。

対象年齢 : 2才ぐらいから
1,000円 + 税 購入する
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お店のご紹介 詳細

営業時間
午前10時~午後7時まで
定休日
毎週水曜日
住所
〒464-0850 名古屋市千種区今池2-3-14
JR・地下鉄東山線 千種駅徒歩5分
※駐車場は店の裏手に5台
詳しいアクセス
TEL
052-733-6481

選びぬかれた絵本や童話を常時30,000冊揃えて、みなさまのご来店をお待ちしております。

絵本の読み聞かせ、紙芝居など、楽しいイベントを定期的に開催しております。

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