昨年、念願かなって、レオ=レオニの展覧会を見に行くことができました。彼がお孫さんのために初めて創った絵本『あおくんときいろちゃん』や、小学校の教科書にも載っている『スイミー』は、ご存知のかたも多いと思います。そんな彼の創った数多くの絵本の中でも、特に私が好きな作品は、『アレクサンダとぜんまいねずみ』です。
人間の家で、いつも危険と隣り合わせの中、こっそりと暮らすねずみのアレクサンダは、ぜんまい仕掛けのおもちゃのねずみ・ウィリーと出会います。持ち主の女の子に可愛がられて、ふかふかのベッドで眠るウィリー。そんなウィリーをうらやむアレクサンダは、ウィリーから、生きものを他の生きものに変える力を持つ「魔法のとかげ」の話を聞き、会いに行きます。自分をおもちゃに変えて欲しいと思ったアレクサンダは、願いをかなえてもらうために、「魔法のとかげ」に言われた紫の小石を一生懸命探します。しかし、持ち主に飽きられたウィリーの窮状を知り、アレクサンダが最後に出した答えは……?
レオ=レオニの絵本は、人生に関する深いメッセージが込められた、哲学的な作品が多いように思います。その中でも私は、この『アレクサンダとぜんまいねずみ』には、友情という身近なテーマで、誰の心にもすーっと入ってくるような親しみやすさを感じます。谷川俊太郎さんのわかりやすくてテンポのよい訳文は、読む人をどんどん物語の世界に引き込んでくれます。読み進むにつれて、友達を思うアレクサンダの行動に共感し、ハッピーエンドに胸が温かくなります。それでいてこの絵本は、これから大勢の人と出会い、様々なことを経験する子どもたちはもちろん、人生の後半に突入した私にとっても、「自分はどうありたいのか」「本当の幸せとは何か」と自分自身に問いかけ、見つめ直すきっかけをくれる、そんな絵本なのです。
この展覧会で私は、レオ=レオニの創り出した美しい芸術の世界に、たっぷりと浸ることができました。なかでも、多くの絵本の原画にコラージュ(貼り絵)として使われている紙のすばらしいこと!丸い石がゴロゴロところがる地面の感じや、苔むした岩肌の様子が表現されたマーブリング。日本がお好きだったのか、随所に見られる千代紙のなつかしい柄や、和紙の柔らかな感触。「魔法のとかげ」のからだは、七色に輝いて、なんとも神秘的です。この絵本を開くたびに、その美しさが目の前に何度でもよみがえってくるのです。店の若いスタッフに聞いたら、この作品も小学校低学年の教科書に載っていたとのこと。教科書でこの物語を知ったというかたには、教科書では見ることのできない、大きくて美しい画面をぜひ見ていただきたいと思います。
40年もの間、世界中の人に愛され続けてきたこの絵本を、この展覧会で改めてじっくりと味わう機会を得て、とても幸せでした。これからもさらに多くの人に、この絵本が読み継がれていきますように!
(スタッフA・N)