第8回「オグリの子」

 岐阜県羽島郡に笠松競馬場があります。名鉄電車名古屋本線で岐阜駅にむかう途中に見えてきます。競馬に興味がなくても、きっとオグリキャップという競走馬の名を知っている人は多いのではないでしょうか。オグリキャップは笠松競馬でデビューした馬なのです。『オグリの子』は笠松競馬場界隈で暮らしている少年たちの物語です。

 子どもたちの生活は、親の生き方や考え方に、どうしても左右されてしまいます。コージ、ユウ、ナオトの3人の小学6年生の少年もそれぞれ全く違った家庭環境の中にいます。ユウは成績もよく、書道家の父親の意向で名古屋の私立中学をめざしています。でも、家では父の言う事は絶対で、良い子にしているのが堅苦しく、窮屈に感じています。ナオトは果物屋の息子で、将来は店を継ぐつもりです。競馬好きの陽気な父とおおらかな母との間でのびのびと暮らしています。コージは競馬の調教師になりたいとひそかに思っています。コージの父は画家だったのですが、今は働かず、主夫をして、生活は働き者の母に頼っています。こんな違った3人でしたが、仲が良く、いつも一緒に遊んでいました。

 家族の事で少なからず悩みを抱えていたコージ、ユウでしたが、殻を破って一歩前に踏み出すのに、その背中を押してくれたものがありました。それはオグリダービーという競走馬でした。はじめてのレース、ガリガリに痩せた小さな馬が、ずっとビリで走っていた馬が、あっという間に各馬をかわして、圧勝します。このレースを堤防から眺めていた3人はこの馬に夢中になります。その後も圧倒的な強さを見せるオグリダービー。次には中央に出るという、その大事な大事なレースに少年たちは自分を賭けるのです。自分らしく生きるために。

 彼らはオグリダービーから何を得たのでしょう。自分と親との関係を、気持ちの中でどう変えていったのでしょう。一年で様々な事を考え、悩み、そして次なる一歩を踏み出そうしている少年たちの姿が清々しい、読後ちょっぴり涙がこぼれてしまうような、素敵な作品だと思います。

松永 みどり
大学時代に児童文学を学び、その頃からメルヘンハウスに通いつめる。今では勤続30年をこえる超ベテラン。長年に渡りブッククラブの選書を担当し、数多くの 子どもたちの心に響く本を選び抜いてきた。社内でも本選びに困ったスタッフから度々相談を持ちかけられるなど、信頼も厚い。プライベートでは2人の娘を持つ母親。野球とテニスが好きで、言わずもがな読書が大好き。

オグリの子 : 阿部 夏丸
阿部 夏丸/ 作
ブロンズ新社

夏は少年たちをひとまわり大きく成長させる……笠松競馬場のある町で三人の少年が、伝説の名馬オグリキャップと出会う「オグリの子」。表題作ほか、問題児と呼ばれる少年との交流を描いた「たにし」兄弟のかけがえのない一瞬を描いた「鬼やんま」の二編を収録。

対象年齢 : 小学上級から
1,650円 + 税 購入する
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