スタッフの この本読んで!-絵本の中の空気をあじわう-

 表紙には、薄明るい地平線を境に、白みはじめた空と、ずっと遠くの方まで見渡せる平原。向かって左端には赤の、右端には緑の豆つぶのようなものがある。この、しんと静まり返った雰囲気の漂う表紙をめくると、朝日が射してきた場面に変わる。影の位置から見て赤い方が東、緑の方が西にあるのだろう。陽が昇り、赤と緑の豆つぶの正体が明らかになる。赤い方はライオンで、緑の方はラクダだった。

   ライオンとラクダは、日の出とともに目をさました。そこそこの距離を保ちつつ、向かい合ってあくびをする二頭。ライオンとラクダが同じ場所にいたら……と思うと、見ているこっちがハラハラする。次の瞬間、ライオンが立ち上がる。空腹のライオンは、目の前にいるラクダを朝ごはんに食べようというのだ。その殺気はラクダに伝わり、食われてなるものかと懸命に走り出す。

 全力で追いかけるライオン、当然のことながら速い。相対するラクダも、情けない顔をしているわりには意外と速い。二頭の距離は開いたままだ。そのとき、突然ライオンがスピードをゆるめた。ライオンは空腹のあまり力が抜けてしまったのだ。ここでラクダも油断してスピードを落とした。一気に引き離せばいいものを。今度はそれに気づいたライオンが、これならいけるかもとスピードをあげる。すると、泣きそうな顔をしながらラクダもスピードをあげた。

 しかし、この死にもの狂いの追いかけっこにもやがて限界が来る。ライオンは空腹で目が回り、ラクダは走りすぎて心臓が爆発しそうになる。座り込む二頭。距離は最初とあまり変わっていないように思える。

 体力を消耗した二頭は、ここから根くらべに入る。長期戦だ。ライオンが意を決して腹に力を入れて立ち上がると、ラクダも最後の力を振りしぼり立ち上がる。それを見たライオンは、やっぱり無理かと座り込む。するとラクダもほっとして座り込む。夕日が沈む中、座ったままの姿勢で両者ともじっと相手を見据えている。それこそ、目を離したら負けなのだろう。赤く燃える空と大地に、緊張感が張りつめている。そうしているうちに夜になり、辺りは闇につつまれた。二頭の集中力も途切れ、眠り込み、また元の赤と緑の豆つぶにしか見えなくなった。

 そしてまた朝が来る。目をさましそっと立ち上がるラクダ。それに気づくライオン。向かい合う二頭の目が合い、ライオンも立ち上がった……ここでこの絵本は終わっている。

 この二頭はまた最初の場面に戻り、追いつ追われつのシーソーゲームを繰り返すのだろう。幾度となく読んだこの絵本、内容も展開も結末もみんなわかっている。それなのに読むたびにいつも、一番最初に読んだ時と同じ場面で同じ気持ちになる。絵本から感じる緊張感や焦燥感、日の出と日没、風と土埃と朝露。その空気をまたあじわいたくなってこの本を開く。もしかしたら、子どもが1冊の絵本を何度も読みたがるのと、同じ心理なのかもしれない。こんな簡単そうで、実は奥が深く難しいことを教えてくれた『はしれはしれ』は、やっぱり私にとって、特別な絵本だ。

                  (スタッフS・I)

はしれはしれ : きむら よしお
きむらよしお / 作
絵本館

静かな朝、地平線から昇る太陽に映し出された2つの影。それは弱ったラクダとお腹を空かせたライオンだった。追いつ追われつ、2頭は命をかけて走る。諦めかけたその時に……、2頭の表情や駆け引きも面白く、疾走感にあふれた作品。繰り返し読みたくなります。

対象年齢 : 5才ぐらいから
1,200円 + 税 購入する
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