このよで いちばん はやいのは
R・フローマン 原作/天野祐吉 翻案
あべ弘士 絵/福音館書店
900円+税 (小学初級から)

想像力の海にこそ明るい未来が……

 この世で一番速いものは、何だろう?カメよりウサギが速い。ウサギよりカモシカが速い。カモシカよりチータが速い。チータは地上を走る動物の中で一番速いが、水の中を泳ぐマグロの仲間のバショウカジキはもっと速い。バショウカジキより速いのは、空を飛ぶツバメの仲間のハリオアマツバメ。人間はそれらの動物たちより遅いが、もっと速い道具を作り出した。新幹線、ジェット旅客機。そして、今私たちが聞いている音は、空気の波となってジェット旅客機より速く飛び交っている。さらに、地球が一日一回ぐるっと回る速さ、地球の周りを人工衛星が周る早さ、地球が太陽の周りを一年かけて周る速さは、もっと速い。そして、光。光は1秒間に30万キロメートル進む。稲妻が見えて少ししてからゴロゴロと雷の音が聞こえるのは、光が音よりずっと速いからだ。この世で一番速いのは、光である。光より速いものは、存在しない。
 でも、本当にそうだろうか?普通の科学絵本ならここで終わるところだが、『このよで いちばん はやいのは』はちょっと違う。光より速いものが、最後にもう一つ登場する。それは私たちの頭の中にある、想像力だ。私たちが頭の中に何かを思い浮かべたり、考えたりする力だ。想像力という翼を使えば、一瞬でどこへでも飛んで行ける。1秒間に30万キロメートルなんて目じゃない。田舎のおじいちゃんの家にも、太陽の向こう側へも、未来や過去へも、一瞬で行くことができる。
 この本は、単にもののスピードを比べ、速さについての知識を与えてくれるだけではないようだ。次々と比較しながら、身近な動物から遠い宇宙まで、意識は次第に外へと向けられ、ついには地球を飛び出してしまう。そして知らぬ間に、普段あまり意識することのないスケールの世界に思いを馳せ、最後には自分の頭の中に戻ってくる。ページをめくりながら私たちは、もう自分の持っている想像力を使っているのだ。
 さあ、今、ちょっと想像してみよう。難しかったら、目をつぶってみるといいかもしれない。自分の中に広がる、想像力の海に、あなたは浮かんでいる。そこには壁も塀もないし、お金もいらない。どこまでも広がる海で、好きなように泳ぐことができる。でも、気をつけなければならない。その海は、使っていないとしぼんでしまうことがある。水の少ない海では、うまく泳げない。遠くへ行くことができない。自分の頭の中にある、光より速いものを、どんどん使おう。ストップウォッチやものさしでは測れない大切なものを私たちが持っているということを、忘れないようにしよう。そして、明るい未来を想像することをやめてはいけない。この本は、そう言っている気がする。
(スタッフC.I)



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