ベーコンわすれちゃだめよ!
P・ハッチンス作/わたなべしげお訳
偕成社/1470円(5才ぐらいから)
心に刻まれた愉快な絵本

 深い海の底に向かって泳いでいくように、少しずつ記憶を掘り下げていくと、たどりつく数冊の絵本があります。ドキドキしてぐっと手に力が入った本、「いつかは私も……」と憧れの気持ちを持って開いた本、主人公になりきって遊んだ本、真っ直ぐな友情に胸がいっぱいになった本。改めて振り返ってみると、小さい頃心震えた本の存在が、今メルヘンハウスで働く私の原点になっていました。あの時の絵本が今に繋がっていると思うとなんだか不思議で、そして嬉しくもあります。
 そんな私にとって特別な本の一つに『ベーコンわすれちゃだめよ!』があります。おつかいの途中で頼まれたものがどんどん変わってしまう、とても愉快なお話です。「うみたてたまごが6こと お茶にいただくケーキと 梨をひとやま買ってきてね。それからベーコンわすれちゃだめよ。」お母さんに頼まれたものを忘れてしまわないように、頭の中で買い物リストを唱える男の子。でもその言葉は、歩きながら目に入ったものにすり変わってしまいます。「うみたてたまご6こ」は、おしゃべりをしている女性三人のたくましい足を見た瞬間に「ふといだいこん6本」に、「お茶にいただくケーキ」は、かっこよくケープをなびかせ、自転車に乗るお兄さんをみた瞬間に「ぼくにいただくケープ」に!?思わず、「ちがうよー!」と教えてあげたくなるのですが、そんな読み手の気持ちをよそに勘違いは止まりません。ページをめくるたび、期待を裏切らない男の子に笑いつつ、「本当に買うものはなんだっけ?」と私自身分からなくなっていったのを覚えています。行き着いた古道具屋で、しっくりこない買い物を済ませた帰り道。一つずつ本当の頼まれものを思い出していくので一安心。と思いきや、うちに帰ってお母さんの顔を見て、思い出したのは……。
 テンポよく進むお話に、最後の“オチ”がたまらず、何度も繰り返し読んでもらいました。あれ?しまった!という男の子の絶妙な表情が、明るい笑いを誘います。水色と黄色を基調とした色使いは、レーキ(熊手)やケープといった単語とともに異国の空気を感じさせ、それも私にとっては魅力の一つでした。
この絵本は、自分で読むより、誰かに読んでもらう方が断然楽しい絵本です。「もう読み聞かせは卒業してしまった」と言うようなお子さんも誘って、ぜひみんなで読んでみて下さい。       
(スタッフ M・M)


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